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中学3年の冬休みのこと、ヨウリンは学校の宿舎から村へ帰って父親と山仕事にでかけた。夕方仕事を終えて帰る途中、同じ村の人に出会った。当時、父は村長をしていたので、2人が何か村の事を話し始めると、ヨウリンはひとり先に帰った。当時の村長は、名誉職で、給料はもちろん1元もないどころか、村人の信頼を得てこその村長なので、背負いきれない悩みが次から次へと持ち込まれるのであった。
夕食の時、父はしきりにため息をついている。ヨウリンはそんな父親のようすを見かねて、村に何か面倒な事が起きたのかと聞いてみた。父は時々箸を動かしながら話し始めた。
「わしらの村は貧しいから小学校も建てられない。学期ごとにちょっと修理するのがやっとだよ。学校がオンボロだと先生の
来手
もないだろ。かといってわしらのような貧乏人になにができる?子どもらをどうする?どこかよその学校へ行って勉強させるとすれば遠すぎるだろ?よそから先生を呼びたくても、ここへ来たい先生がいるわけがない。村の親たちはこのことを心配してるんだよ。わしらはこの村に生まれて、一生こんな暮らしを続けてきた。だが次の世代の子どもたちには同じ苦しみを継がせたくないんだよ。」
「貧しい土地ではお金もそう簡単には入ってこない。子どもを学校へやるのには、先生がいなくては話にならないが、やっと先生がやってきても、多くの場合、何日も続かない。すぐに入れ替わり立ち替わり落ち着かないだろう?子どもたちの学業を遅らせるわけにはいかん。役所では新学期にどんな先生を送りこんでくれるか、よい先生が来てくれればいいのだが―――」
この夜、父は娘相手に、真剣な面持ちで、いつまでも話し続けた。この村では、オンボロだけど、子どもたちに希望の灯を与え続ける小学校が、新学期を迎えるたびに、決まって、親たちに、数々の難問をつきつけてくるのである。
「そんな心配いらないって。役所はちゃんとやってくれるわよ。」
父はなにも言わない。しばらくしてちらっと娘を見て言った。
「ヨウリン、おまえ今年はいくつになる?もしおまえが将来教師になりたいのなら、今、村へ帰ってきて、村の子どもたちを教えて、喜ばしてやってくれないか。」
ヨウリンが想像もしなかった提案が、その夜突然、父の口をついて出た。
「つらいだろうが、わかってほしいのだよ。貧乏人の子はつらい。おまえも小さい頃から、貧乏のつらさを知ってるだろう。貧しい村だからこそ学力をつけなくてはだめだ。それを誰がやる?おまえに頼みたい。その気持ちをわかってくれないか。」
ヨウリンには、将来先生になりたい夢があった。そのための勉強は、どんなに苦しくてもやり遂げたいと思っている。高校へ進むか、もっと近道をとって中専(二年間の師範専門課程)へ進むか、いずれ家族みんなに相談することだと思っていた。家が貧乏なことは知っているが、周りの人々の期待と励ましも感じていた。でも、今すぐだなんて、そんなことは無理に決まっている。
ヨウリンは、十四歳になったこの年、中学校を卒業した。同時に彼女の父親が、
病
に倒れ入院した。家の中には売るものは何もなく、中学教師の兄の、僅かばかりの給料をあてにするしかなかった。病院のベッドの傍らで看病するヨウリンに、痩せ衰えた父親が話しかける。
「ヨウリン、おまえが中学卒業できたのは、兄さんのおかげだよ。今や、おまえは村の中でも学力のある女性なんだよ。この新学期には、おまえは上の学校へは行かないで、村へ帰って代用教員になってくれないか。学校はオンボロで
潰
れそうだし、先生も来ないじゃあ子どもたちがあまりにも可哀そうだと思わないか。うんと言っておくれ。進学しないでおくれ。これから先、この村で代用教員が必要でなくなった時に、進学を考えてくれないか。お願いだよ。」
数ヶ月前、冬休みの夜のことが、ヨウリンによみがえってきた。
父は、あの時からずっと今のことを予想していたのだろうか。あれから、父の説得は、粘り強く続いていた。
中学卒業といえば、たしかに村一番の学歴である。ヨウリンは、病院を出てからの山道、家へ帰ってからも考え続けた。せっぱつまっていた。父親の言うとおりにすべきか。だが、そもそも今の彼女に教えることができるだろうか。彼女はまだ
おさな
過ぎる。何をどう教えればいいのだ?学生はヨウリンの話を聞いてくれるだろうか。ヨウリンは、よい教師にたりたいという夢を抱いてきた。でもそれはもっとたくさん学んでからこそできる。自信をもって学生に教えられる先生になりたかった。抱えきれないほどの疑問と不安が、ヨウリンの頭の中を駆け巡った。ああ!それになにより、はたして勉強の機会が本当にやってくるのだろうか。
彼女の父親の言うとおり、中学教師をしていた兄がいたからこそ、彼女は兄と同居して中学を卒業できた。父親が入院した今、もう兄の援助をあてにできないどころか、借金も考えなければならない。
ここ貧しい少数民族の村々で、私たちがよく見聞きする現象の一つは、家族に病人が出ると、その病人はぎりぎりまで我慢するので、悪化している事が多い。そのことは、たちまち子どもたちを、中途退学の不安にさらすことにつながる。入学する時には、やっとの思いでお金を工面してもらった事を、十分承知しているので、子どもたちは、退学の憂き目にさらされた時には、悲しくて、悔しくて、泣き喚きながらも、どうにもならないことを覚悟しなければならない。ここでは、一家に複数の子どもがいるのが普通で、もし、一家で1人分の入学が可能となれば、子どもたち同士で、それぞれつらい覚悟をする。
「弟は、勉強が好きだから、私はあとにする。」と学齢をすぎた姉が譲歩することがある。
弟は、姉がそれを口にしてくれたことに感謝して、勉学に励む。
「姉は成績が良くて、今すごく勉強したがっている。」と妹が退学することがある。
姉は妹の分もがんばって、進学する決心をする。
しかし、弟に譲った姉も、姉を進学させようとする妹も、それぞれの覚悟の下には、内心の気持ちを隠しており、就学について話す途中からは、例外なく、せき切ったように
咽
ぶ。親が説得したり、薦めたりはしない。子どもたち自身がつらい覚悟をきめるのである。
ヨウリンにとって、今は、進学できないとすれば、残る道は――
新学期は近づいていた。ヨウリンは、役所から代用教員の通知をうけとった。
これで、ヨウリンはとうとう三梁徨村小学校の代用教員になったのである。「先生」という言葉の響き!ヨウリンの胸は高鳴った。もう後戻りはできない。
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