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本のタイトルは「絵本を楽しもう」という44ページのカラー刷りで、ドロップアウト率の高い五歳から九歳を対象にしたものであった。パキスタンの教育の現場は、イスラム教の聖典であるコーランを暗記するようにすべて暗記主義で行われていた。そして鞭と。これではおもしろいはずはない。子どもに興味をもたせるため、これまでの文字を中心にしたものから絵を中心にした物語や、パキスタン全体の絵地図や絵文字など含めて想像性に富んだおもしろい絵本を編集することにした。
見返しにはいろいろの地方のさまざまな子どもたちの顔を紹介し、かれらの将来の夢を紹介した。それは学校の先生やお医者さん、クリケットの選手など多彩な職業を吹き出しに入れた。通常、子どもたちの未来の職業はほとんど親が握っているので、子どもたちは自由に自分の将来の夢を見れない。これは「子どもたちの夢見る権利」とでも言えるものであるが、他人の夢をのぞくことは、子どもたちの世界を強く刺激する。
また画家の発案で国語のウルドー語のアルファベットを楽しい絵文字で紹介したページを作成した。多くの学校関係者が集まったとき、特にこのページに対してある老人が立ち上がって激しく批判したことがある。「われわれの言葉はコーランのアラビヤ語に由来し、すべてカリグラフイーによって出来ている。このような絵文字で我々の文字を表現すべきではない。なんということだ」 これに対して異国人である私は黙っていた。文字に関する表記は彼ら自身が答えなければならない文化の根源的な問題だからだ。会場の人々がどんな判断をこの絵文字に出すか、聞いてみたいと思った。
するとすぐに何人かの人が立ち上がり、「なにを言っている。今、子どもたちには想像力のあるものが是非とも必要なのだ。この絵文字で書かれたウルドー語を見ろ。こんなに楽しく書かれた文字は初めて見た。ありがとう。こんな美しい絵本を作ってくれて!」 と大事そうに絵本を抱えて絵本を擁護するこの発言によって会場で絵本を鋭く批判した老人は黙ってしまった。
いい絵本を作ることはいつもこうした原理主義的な保守派との戦いであるが、実のところ彼も集会後、この絵本が一冊欲しいとあとで催促に来た。
とにかく大きな反響があった。パキスタンの子どもたちやアフガニスタンの難民の子どもたちもこの絵本が大好きであった。子どもたちがこの絵本を受け取るときの表情は、素晴らしい輝きに満ちていた。子どもの瞳が輝くのは、それは「未来を見つめようとしているからだな。」と実感した。食べ物を受け取るときの表情と違って、瞳が大きく輝く。子どもたちは、精神的な食べ物の本が、どんなに大きな精神的な滋養となるのかを直感的に知っている。文字が読める子も読めない子も。
この絵本は最初に一万部を刷ったが、すぐに二刷りも行われた。学校の先生や子どもたちは狂喜した。「初めてこんな美しく楽しい絵本を読むことができた。」ある人は、「いままでうちの子は教科書でもなんでも本はすぐに破ってしまうが、この本だけは今も破らず大切にしている。しかも内容を全部暗記しているよ。」と驚きをもって報告した。
こうした絵本の編集はACCUでアジアの専門家と一緒に長年経験してきたことでもあり、特別なことではなかった。才能あるたくさんの人々の考えを共同編集すればいいのだから。そのためにもパキスタンの現地の子どもたちのニーズをベースに共同的な編集作業を通じながらパキスタンの編集者、作家、画家などにその方法論を詳しく伝えていった。
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